しかし、わずかな問題でもごまかさないという精神は、この白の作業服によってHの文化として定着していった。
仕事におけるこのような哲学は、創業者によって植え付けられるものである。
モノづくりの哲学は様々であっていい。
経営者が生産現場に軸足を置く限り、それがその企業独自のモノづくりの遺伝子を作り出す。
よくM氏は、「モノをつくる前に人をつくる」と言われた。
作業者の士気を高めれば高めるほど、品質は上がり、しかも生産効率が上がるという真理はK氏によって発見されたモノづくりの哲理の1つであると言っていい。
この言い方に習うなら、HS氏は「モノをつくる前に環境や道具をつくる」人であったと言えるかもしれない。
このことが欧米の工作機械を大量に買い込んで昭和朗年の経営危機につながったが、そのような苦難もまた、HのDNAを強靭にすることにつながったはずである。
乗用車ラインでRVスタイルの車を生産することを成功させたHのモノづくりの現場では、社員1人1人の胸の底で、S氏が呪え続けていたのではなかったか。
「バカャロー!頭で難しく考えるからできないんだ!RVだろうが乗用車だろうが同じクルマなんだ。
ちつとは頭を使え!」現場を排掴する経営世界の超優良企業に共通する性格を研究したT・J・P氏とR・H・W氏は、共著で、優良企業には、トップはじめマネージャーが現場をウロウロする習慣が他企業以上に見られると指摘している。
Sは世界的企業だが、例外的にトップが生産現場を排掴することの少ない企業である。
K氏は、こう言っている。
ユナイテッド航空のエド・カールソンは、これを「眼に見えるマネジメント」とか「MBWAと呼んでいる。
ヒューレット・パッカードでは、同じくMBWAが、「HP的」やり方の重要な要素となっている。
つまり「右往左往経営」である。
Sは物づくりが下手だ。
最初の一個はうまい。
しかし、物づくりとは、大量につくる技術。
今日、トップが現場を歩く重要性はむしろ増しているように思われる。
企業規模が大きくなればなるほど、マネージメントが現場から遊離して机上のものになりがちだからである。
日本製造業の優等生とされるT自動車やKでは、大企業となった今も、トップは意識して工場を排個し、社員にはまさに「右往左往」しているように見える。
彼らは、創業者の姿勢を喪失しないように意識的に模倣行動しているようにすら見える。
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